【創作】小話:ぬいぐるみといつも一緒にいる女の子の話

僕のクラスに、いつもうさぎのぬいぐるみと一緒にいる女の子がいる。
彼女の机の上には、白くてふわふわした、赤い瞳と白いフリルがついた赤い服を着て、いつも座っている。
授業中も休み時間の時も、いつも彼女と一緒だ。
僕が通う中学校の教師は優しい人が多いのか、別段授業の邪魔になっていることもないので特に指摘をすることもなかった。

「あいつ、中学にもなってまだぬいぐるみと一緒にいるのかよ。気持ち悪いな。」

でも僕の友達は、先生たちのようにスルーすることはできないみたいだ。

「それで君に迷惑をかけていることもないんだから、気にするだけ時間の無駄じゃない?」

これもいつものやりとり。
同調するとヒートアップしてしまうから、あくまで冷めた態度で友達を諭す。
「無駄」という言葉が効いているのか、逆上してくることはあまりない。
彼もまた、根は優しいのだろう。

彼女の周りにほかの女子が集まってきた。

「ねーねー、どうしていつもそのぬいぐるみを持ってきてるの?」

彼女たちも遠巻きに、毎日ぬいぐるみを持ってくる女の子のことが気になっていたのだろう。
数日前まではコソコソと話していた気がするが、今日は直接聞くことにしたみたいだった。
その女の子は少しはにかみながら答えた。

「これはね、私の大好きな人が誕生日プレゼントにくれたの。
 私、嬉しくって、お礼もまともに言えなかったから、代わりにずっと一緒にいることにしたの。」

「そんなに大事なら今すぐお礼言いに行けばいいじゃん!」
「プレゼントくれるってことは絶対脈ありじゃない?!」
突然の恋バナトークに女子たちのテンションはMAXだ。
女の子と彼女たちの温度差は端から見ていても明らかだったが、女の子が何とか彼女たちの勢いを削いで、また普段通りの穏やかな休み時間の空気に戻る。

僕自身、なぜ彼女が毎日ぬいぐるみと一緒にいるのか、理由が知りたかった。

女の子にプレゼントを渡すことなんて初めてだったから。

緊張しすぎて、正直その時のことははっきり覚えていないけど。

好意的に受け取ってもらえたことが分かって。

少しだけ、ほっとした。

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